その人事異動、本当に必要ですか?キャリアコンサルタントと考える異動の意味
コンサルタントの竹中です。
日本の会社で働いていると、「当たり前」とされていることがいくつかありますよね。終身雇用、新卒一括採用、そして人事異動。特に年度末から年度初めにかけては、会社の辞令に一喜一憂する、なんてことも少なくないかもしれません。
日々、一生懸命仕事に取り組んで、ようやく成果が見えてきた、さあこれから!という時に、突然「異動」を命じられたら…あなたならどう感じますか?
「なんで今なんだろう…」 「ミスしたわけじゃないのに…」 「せっかく面白くなってきたところなのに…」
こんな風に、戸惑ったり、残念に思ったり、中には会社に対して不信感を持ってしまう方もいらっしゃるかもしれません。「会社は現場のことなんて分かっていないんじゃないか?」「自分は将棋の駒みたいに扱われているだけ?」そんな風に感じてしまうこともあるでしょう。
でも、会社はなぜ、この「人事異動」を行うのでしょうか?働く私たちにとって、異動は本当に必要なものなのでしょうか?今日は、キャリアコンサルタントである私の視点も踏まえながら、この「人事異動」について一緒に考えてみたいと思います。
会社側の視点:人事異動の「隠れた」目的とは?
「異動」と聞くと、ネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、会社側には会社側の目的があります。もちろん、すべての異動が社員のためかというと、必ずしもそうとは言えないケースもあるかもしれません。ですが、多くの企業が人事異動を行う背景には、主に二つの狙いがあると言われています。
一つは、**「人財育成」**です。特定の部署に長くいることで専門性は深まりますが、時に視野が狭くなったり、仕事がマンネリ化してしまうこともあります。異動は、社員に新しい環境でこれまでとは違う仕事や人間関係に触れてもらい、新しいスキルや知識を身につけてもらう機会。そこで「今まで知らなかった自分」や「新しい強み」を発見してほしい、という会社側の期待が込められている場合があります。
もう一つは、**「組織の活性化」**です。長く同じメンバー、同じやり方で仕事をしていると、組織の成長が停滞してしまうことがあります。そこに、新しい部署から異動してきた人が持つ異なる視点や経験が加わることで、組織に新しい風が吹き込まれます。これによって「化学反応」が起こり、今までになかったアイデアや、より良い仕事の進め方が生まれることがあるのです。これは、会社全体を強くしていくために必要な「刺激」とも言えます。
つまり、会社が人事異動を行う背景には、個々の社員の成長を促し、組織全体をより良くしていきたい、という(建前も含めて)目的があるということです。
日本と海外の比較:人事異動は世界共通?
実は、この「人事異動」というシステム、特にジョブローテーションのような形で部署を異動させることは、日本企業に多く見られる慣習だと言われています。
例えば、アメリカなどの海外企業では、一般的に「ジョブ型雇用」といって、特定の職務内容に対して人材を採用することが多いです。そのため、個人の専門性やスキルが重視され、キャリアアップのためには同じ職種や業界でより高いポジションや給与の会社へ転職する、という形が一般的です。彼らにとって、会社都合で全く畑違いの部署に異動する、ということはほとんどありません。Jobを変えたいなら、会社を辞めてJobを探す、というイメージですね。
一方、日本の多くの企業は「メンバーシップ型雇用」の側面が強く、会社の一員として採用し、様々な部署や仕事を経験させることで、幅広い知識や経験を持つ人材(ジェネラリスト)を育てようとする傾向があります。人事異動は、このメンバーシップ型雇用における人財育成の一環として機能してきたと言えます。
どちらの働き方が優れている、というわけではありません。スペシャリストとして特定の分野を極めるキャリアもあれば、ジェネラリストとして多様な経験を積むキャリアもあります。日本の人事異動は、良くも悪くも、個人のキャリアパスに会社が積極的に関わる一つの形と言えるでしょう。
異動がもたらすもの:新しい自分に出会うチャンス
もちろん、異動には大変な側面もあります。新しい仕事内容を覚えたり、新しい人間関係をゼロから構築したり…。「また一からか…」と気が重くなることもあるかもしれません。長年培ってきた知識やスキルが直接活かせない部署への異動であれば、一時的に「自分は会社に必要とされていないのだろうか」と感じてしまうこともあるかもしれません。
しかし、ここで少し視点を変えてみませんか?
「知らない」「できない」ということは、決してネガティブなことだけではありません。むしろ、それは**「新しいことを知るチャンス」「新しい自分に出会うチャンス」**なのです。
これまで経験したことのない分野の仕事でも、真摯に向き合い、学び、試行錯誤することで、今まで気づかなかった自分の強みや適性を発見することがあります。新しい人間関係の中で、これまでの自分とは違う一面が引き出されることもあるでしょう。
異動は、あなたがこれまでの「当たり前」から抜け出し、コンフォートゾーン(快適な領域)の外へ一歩踏み出す機会を与えてくれます。そして、コンフォートゾーンの外にこそ、あなたの新しい成長や可能性が広がっているのです。
もちろん、すべての異動が本人の希望やキャリアプランに沿ったものであるとは限りませんし、納得できない異動もあるかもしれません。しかし、与えられた環境の中で、いかに学び、成長の機会を見出すか。その「しなやかさ」こそが、変化の多い現代社会で働く私たちにとって、非常に重要な力になるのではないでしょうか。
最後に:変化を成長のエネルギーに
人事異動は、日本の企業文化の中で長く続いてきた慣習です。会社側の目的があり、また個人のキャリアにも良くも悪くも影響を与えます。
もし、あなたが今、人事異動で戸惑いや不安を感じているとしたら、あるいは、会社の異動方針に疑問を感じているとしたら、ぜひこれをご自身のキャリアについて深く考える機会にしてみてください。
異動先でどんなスキルを身につけたいか? この経験を将来どう活かせるか? 会社に任せるだけでなく、自分自身でキャリアをどう作っていくか?
「知らないこと」を恐れず、新しい環境での学びを楽しむ。変化を成長のエネルギーに変えていく。そうすることで、人事異動はあなたのキャリアにとって、かけがえのない経験となるはずです。
もし、人事異動やご自身のキャリアについて一人で悩んでしまう時は、どうぞ抱え込まずに誰かに話をしてみてください。私たちキャリアコンサルタントは、あなたの経験や想いを丁寧に伺い、あなたが納得できる次のステップを一緒に考えるお手伝いをします。
話だけでも聞いてみようかな、と思われた方は、ぜひ弊社のホームページよりお気軽にご連絡ください。